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  • 'Takuya ASADA [email protected]' title: | ハイパーバイザの作り方~ちゃんと理解する仮想化技術~ 第7回 Intel VT-xを用いたハイパーバイザの実装その2「/usr/sbin/bhyveによる仮想CPUの実行処理」 ...

はじめに

前回は、BHyVeの概要や使い方について紹介してきました。 いよいよソースコードの解説に入っていきます。 今回は、とくに/usr/sbin/bhyveの初期化とVMインスタンスの実行機能の実装について解説をしていきます。

解説対象のバージョン

BHyVeは、現在開発の初期段階です。 日々開発が進められており、さまざまな機能が追加されていますが、リリースバージョンが存在していません。

そこで、本連載では執筆時点での最新リビジョンであるr245673を用いて解説を行います。 r245673のインストールディスクは、以下のアドレスからダウンロードできます。

ftp://ftp.freebsd.org/pub/FreeBSD/snapshots/amd64/amd64/ISO-IMAGES/10.0/FreeBSD-10.0-CURRENT-amd64-20130119-r245673-release.iso

r245673のソースコードは次のコマンドで取得できます。

svn co -r245673 svn://svn.freebsd.org/base/head src

/usr/sbin/bhyveと/usr/sbin/bhyveloadの役割分担

まずはじめに、前回簡単に紹介した/usr/sbin/bhyveと/usr/sbin/bhyveloadの役割分担について解説します。 ゲストOSを起動するには、/usr/sbin/bhyveを実行する前に/usr/sbin/bhyveloadを実行してゲストカーネルのロードを行います。 /usr/sbin/bhyveloadを実行すると、/dev/vmm/へVMインスタンスのデバイスファイルが作成されます。 このデバイスファイルを通じてゲストメモリ領域にゲストカーネルがロードされ、ゲストマシンのレジスタ初期値やGDT・IDTなどのデスクリプタの設定が行われます。

これに対して/usr/sbin/bhyveの仕事は、初期化済みのVMインスタンスのデバイスファイルをオープンし、VMインスタンスの実行を開始するすることになります。 また、ゲストOSが使用する各種デバイスをエミュレーションするのも/usr/sbin/bhyveの役割となります。

なお、CPUのモードをVMX non root modeに切り替えるなどのハードウェアに近い処理は、特権モードで実行する必要があるためカーネルモジュール(vmm.ko)の仕事になります。

/usr/sbin/bhyveが起動されたら、まずはじめにゲストマシンが使用する各種デバイス(HDD/NIC/コンソール)のエミュレータを使用可能な状態に初期化する必要があります。

初期化が終わると、 /usr/sbin/bhyveは仮想CPUの数だけスレッドを起動し、/dev/vmm/${name}に対してVM_RUN ioctlを発行します(図1)。 vmm.koはioctlを受けてCPUをVT-x non root modeへ切り替えゲストOSを実行します(VMEntry)。

VM_RUN ioctl による仮想 CPU の実行イメージ

VMX non root modeでハイパーバイザの介入が必要な何らかのイベントが発生すると制御がvmm.koへ戻され、イベントがトラップされます(VMExit)。 イベントの種類が/usr/sbin/bhyveでハンドルされる必要のあるものだった場合、ioctlはリターンされ、制御が/usr/sbin/bhyveへ移ります。 イベントの種類が/usr/sbin/bhyveでハンドルされる必要のないものだった場合、ioctlはリターンされないままゲストCPUの実行が再開されます。

それでは、実際にBHyVeのソースコードを読んでいきましょう。 リスト1とリスト2にソースコードを示します。

リスト1 usr.sbin/bhyve/bhyverun.c

static void *
fbsdrun_start_thread(void *param)
{
	char tname[MAXCOMLEN + 1];
	struct mt_vmm_info *mtp;
	int vcpu;

	mtp = param;
	vcpu = mtp->mt_vcpu;

	snprintf(tname, sizeof(tname), "%s vcpu %d", vmname, vcpu);
	pthread_set_name_np(mtp->mt_thr, tname);

	vm_loop(mtp->mt_ctx, vcpu, vmexit[vcpu].rip);                   (17)

	/* not reached */
	exit(1);
	return (NULL);
}

void
fbsdrun_addcpu(struct vmctx *ctx, int vcpu, uint64_t rip)
{
	int error;

	if (cpumask & (1 << vcpu)) {
		fprintf(stderr, "addcpu: attempting to add existing cpu %d\n",
		    vcpu);
		exit(1);
	}

	cpumask |= 1 << vcpu;
	foundcpus++;

	/*
	 * Set up the vmexit struct to allow execution to start
	 * at the given RIP
	 */
	vmexit[vcpu].rip = rip;
	vmexit[vcpu].inst_length = 0;

	if (vcpu == BSP || !guest_vcpu_mux){
		mt_vmm_info[vcpu].mt_ctx = ctx;
		mt_vmm_info[vcpu].mt_vcpu = vcpu;
	
		error = pthread_create(&mt_vmm_info[vcpu].mt_thr, NULL,
				fbsdrun_start_thread, &mt_vmm_info[vcpu]);          (16)
		assert(error == 0);
	}
}
......(省略)......
static vmexit_handler_t handler[VM_EXITCODE_MAX] = {                (22)
	[VM_EXITCODE_INOUT]  = vmexit_inout,
	[VM_EXITCODE_VMX]    = vmexit_vmx,
	[VM_EXITCODE_BOGUS]  = vmexit_bogus,
	[VM_EXITCODE_RDMSR]  = vmexit_rdmsr,
	[VM_EXITCODE_WRMSR]  = vmexit_wrmsr,
	[VM_EXITCODE_MTRAP]  = vmexit_mtrap,
	[VM_EXITCODE_PAGING] = vmexit_paging,
	[VM_EXITCODE_SPINUP_AP] = vmexit_spinup_ap,
};

static void
vm_loop(struct vmctx *ctx, int vcpu, uint64_t rip)
{
	int error, rc, prevcpu;

	if (guest_vcpu_mux)
		setup_timeslice();

	if (pincpu >= 0) {
		error = vm_set_pinning(ctx, vcpu, pincpu + vcpu);
		assert(error == 0);
	}

	while (1) {
		error = vm_run(ctx, vcpu, rip, &vmexit[vcpu]);              (18)
		if (error != 0) {
			/*
			 * It is possible that 'vmmctl' or some other process
			 * has transitioned the vcpu to CANNOT_RUN state right
			 * before we tried to transition it to RUNNING.
			 *
			 * This is expected to be temporary so just retry.
			 */
			if (errno == EBUSY)
				continue;
			else
				break;
		}

		prevcpu = vcpu;
                rc = (*handler[vmexit[vcpu].exitcode])(ctx, &vmexit[vcpu],
                                                       &vcpu);		(21)
		switch (rc) {                                               (23)
                case VMEXIT_SWITCH:
			assert(guest_vcpu_mux);
			if (vcpu == -1) {
				stats.cpu_switch_rotate++;
				vcpu = fbsdrun_get_next_cpu(prevcpu);
			} else {
				stats.cpu_switch_direct++;
			}
			/* fall through */
		case VMEXIT_CONTINUE:
                        rip = vmexit[vcpu].rip + vmexit[vcpu].inst_length;
			break;
		case VMEXIT_RESTART:
                        rip = vmexit[vcpu].rip;
			break;
		case VMEXIT_RESET:
			exit(0);
		default:
			exit(1);
		}
	}
	fprintf(stderr, "vm_run error %d, errno %d\n", error, errno);
}
......(省略)......
int
main(int argc, char *argv[])
{
......(省略)......

	while ((c = getopt(argc, argv, "abehABHIPxp:g:c:z:s:S:n:m:M:")) != -1) {
......(省略)......
	vmname = argv[0];

	ctx = vm_open(vmname);                                          (1)
	if (ctx == NULL) {
		perror("vm_open");
		exit(1);
	}
......(省略)......
	if (lomem_sz != 0) {
		lomem_addr = vm_map_memory(ctx, 0, lomem_sz);               (5)
		if (lomem_addr == (char *) MAP_FAILED) {
			lomem_sz = 0;
		} else if (himem_sz != 0) {
			himem_addr = vm_map_memory(ctx, 4*GB, himem_sz);        (7)
			if (himem_addr == (char *) MAP_FAILED) {
				lomem_sz = 0;
				himem_sz = 0;
			}
		}
	}

	init_inout();                                                   (8)
	init_pci(ctx);                                                  (9)
	if (ioapic)
		ioapic_init(0);                                             (10)
......(省略)......
	error = vm_get_register(ctx, BSP, VM_REG_GUEST_RIP, &rip);      (11)
	assert(error == 0);
......(省略)......
	/*
	 * build the guest tables, MP etc.
	 */
	mptable_build(ctx, guest_ncpus, ioapic);                        (13)

	if (acpi) {
		error = acpi_build(ctx, guest_ncpus, ioapic);               (14)
		assert(error == 0);
	}

	/*
	 * Add CPU 0
	 */
	fbsdrun_addcpu(ctx, BSP, rip);                                  (15)
  • (1) getoptで処理されなかった一番端の引数がVM名となります。 libvmmapiを用いてVM名に対応するデバイスファイルをオープンします。

  • (5) 4GB未満のゲストメモリ空間をlomem_addrへマッピングします。

  • (7) 4GB以上のゲストメモリ空間をhimem_addrへマッピングします。

  • (8) IOポートエミュレーションの初期化を行います。

  • (9) PCIデバイスエミュレーションの初期化を行います。

  • (10)IO APICエミュレーションの初期化を行います。

  • (11)/usr/sbin/bhyveloadで設定されたRIPレジスタの値を取得します。

  • (13)MPテーブルを生成します。2つ以上のCPU数で起動する時に必要です。

  • (14)ACPIテーブルを生成します。無変更なFreeBSDカーネルを起動するのに必要です。

  • (15)cpu0(BSP)のスレッドを起動します。実行開始アドレスとしてRIPを渡します。

  • (16)pthread_create(fbsdrun_start_thread)します。 ここまでがハイパーバイザの初期化の処理になります。 ここからはゲストマシンの実行処理に移っていきます。

  • (17)vm_loop()で仮想CPUを実行します。

  • (18)whileループの中でvm_run()を呼びます。

  • (21)ioctlリターンの理由(vmexit.exitcode)に対応したイベントハンドラ(handler[])を呼び出します。

  • (22)/usr/sbin/bhyveに定義されているhandler[]です。 IOポートへのアクセス、MSRレジスタの読み書き、メモリマップドIO、 セカンダリCPUの起動シグナルなどがハンドラとして定義されています。

  • (23)handler[]からの返り値により、CPUを現在のripから再開するか・次の命令から再開するか・ ハイパーバイザの実行を中止するか、などの処理を行なっています。 実行が再開される場合は、whileループにより再びvm_loop()の実行に戻ります。

リスト 2 lib/libvmmapi/vmmapi.c

......(省略)......
static int
vm_device_open(const char *name)
{
        int fd, len;
        char *vmfile;

	len = strlen("/dev/vmm/") + strlen(name) + 1;
	vmfile = malloc(len);
	assert(vmfile != NULL);
	snprintf(vmfile, len, "/dev/vmm/%s", name);

        /* Open the device file */
        fd = open(vmfile, O_RDWR, 0);                               (4)

	free(vmfile);
        return (fd);
}
......(省略)......
vm_open(const char *name)
{
	struct vmctx *vm;

	vm = malloc(sizeof(struct vmctx) + strlen(name) + 1);           (2)
	assert(vm != NULL);

	vm->fd = -1;
	vm->name = (char *)(vm + 1);
	strcpy(vm->name, name);

	if ((vm->fd = vm_device_open(vm->name)) < 0)                    (3)
		goto err;

	return (vm);
err:
	vm_destroy(vm);
	return (NULL);
}
......(省略)......
char *
vm_map_memory(struct vmctx *ctx, vm_paddr_t gpa, size_t len)
{

	/* Map 'len' bytes of memory at guest physical address 'gpa' */
	return ((char *)mmap(NULL, len, PROT_READ | PROT_WRITE, MAP_SHARED,
		     ctx->fd, gpa));                                        (6)
}
......(省略)......
int
vm_get_register(struct vmctx *ctx, int vcpu, int reg, uint64_t *ret_val)
{
	int error;
	struct vm_register vmreg;

	bzero(&vmreg, sizeof(vmreg));
	vmreg.cpuid = vcpu;
	vmreg.regnum = reg;

	error = ioctl(ctx->fd, VM_GET_REGISTER, &vmreg);                (12)
	*ret_val = vmreg.regval;
	return (error);
}
......(省略)......
int
vm_run(struct vmctx *ctx, int vcpu, uint64_t rip, struct vm_exit *vmexit)
{
	int error;
	struct vm_run vmrun;

	bzero(&vmrun, sizeof(vmrun));
	vmrun.cpuid = vcpu;
	vmrun.rip = rip;

	error = ioctl(ctx->fd, VM_RUN, &vmrun);                         (19)
	bcopy(&vmrun.vm_exit, vmexit, sizeof(struct vm_exit));          (20)
	return (error);
}
  • (2) vm_open()はstruct vmctxをアロケートし、

  • (3) vmctx->fdにファイルディスクリプタを保存します。

  • (4) vm_device_open()は/dev/vmm/${name}を読み書き用でオープンします。

  • (6) /dev/vmm/${name}をmmap()します。 vmm.koからゲストメモリ空間のアドレスが渡されます。

  • (12)/dev/vmm/${name}へVM_GET_REGISTER ioctlを行います。 vmm.koからレジスタの値が渡されます。

  • (19)/dev/vmm/${name}へVM_RUN ioctlを行います。 vmm.koはこのスレッドが実行されているCPUをVT-x non root modeへ移行し、 vmrun.ripで指定されたアドレスから実行を開始します。

  • (20)VMX non root modeでハイパーバイザの介入が必要な何らかのイベントが発生すると vmm.koの中でトラップされ、/usr/sbin/bhyveでイベントを処理する必要がある場合は ioctlがリターンされます。 リターンされた理由をvmm.koからstruct vmexitで受け取ります。

まとめ

/usr/sbin/bhyveの初期化とVMインスタンスの実行機能の実装について、ソースコードを解説しました。 極めてシンプルなループによりVMインスタンスの実行処理が実現されていることを確認して頂けたかと思います。

今回はユーザランド側の実装のみ解説しましたが、次回はこれに対応するカーネル側の実装を見て行きたいと思います。

ライセンス

Copyright (c) 2014 Takuya ASADA. 全ての原稿データ は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。